いや、少なくともピットブルは期待してたんですけどね。


以前のわたしでしたら、「いまの自分には感じられなかっただけで、将来気に入るかも知れない」とか、「サンプリングネタになるかもしれない」とか考えて、CD棚にしまいこんでいたと思うんですけど、そういうの、もういいんです。
速やかに捨てました。
この年になってやっと、取捨選択する基準ができてきたように思います
(中略)
ーーきみ(山下洋輔)は、日本のセシル・テイラーじゃないよ。
ぼくは、セロニアス・モンクという感じがする。
そう、ぼくがいうと、
ーーそのほうが嬉しいな。
と、うなづく彼の素直さが好きだ。
その夜、たまたま出会ったグループと、ぼくの誘拐癖に乗って、
ぼくの家の、インド、ネパール、バリ島などの不思議な楽器をいじりまわし、ついに門外不出の歴史的録音を残して行った、彼の飲みっぷりが好きだ。
さて、その夜も明けそめる頃、セロニアス・モンクのソロ・レコードを聞きながら、カーペットの上に伸びていた彼は、いつか、安らかな寝息を、立てはじめていた。
ぼくは、そっと、レコードを停めたが、瞬間、彼の寝息はとまり、静かな低音が、きこえて来たのだ。
ーー裏をかけてくれませんか?